結論からいうと、論文には木材によって音は変わらないとは書いておらず、木材によって音は変わると書いてありました。ただし実験データの中で、高音域の音の変化は木材による影響はほとんどなく、ピックアップによる変化の方が大きかったといった結果があります。
どうやら、この論文の一部が「木材で音は変わらない」という誤った事実として伝わってしまっているようです。
論文まで読だところで、この記事自体は大きな問題ではないと思ったのですが、このツイートに対して多くの人が共感を示していることから、もしかするとかなりの数のプレイヤーがエレキギター、もしくはエレキベースの鳴りを感じることなく、楽器を弾いているのではないかと思うようになりました。木材による音の変化はプラシーボ効果だという意見に共感している人もかなりいるようで、楽器を愛する私には悲しいことでした。そこで、ここはなんとしても、
「エレキギターの鳴りとは」
「エレキギターのサウンドの素晴らしさとは」
「エレキギターそれぞれの個性とは」
というところまで突っ込んで記事を書こうという気持ちになりました。
まず、この記事を見て、私が真っ先に思ったことは、
アンプにつないでいないのでは?
ということです。というか、論文もアンプにつながない状態で実験データをとっているのではないかと思いました。下記のことは持論ですが多分間違いないと思います。
エレキギターは大音量で弾くことを想定して作られた楽器です。
なぜかというと、ギターをアンプにつないで弾くと音が大きくなる分、ハウリングが起きるからです。共鳴板を有するエレアコなどは比較的小さな音でもハウリングが起きるために演奏もままならない状態になります。そこで、厚めのボディ材で作ったギターの一部を空洞にしたり、空洞をなくすことでハウリングを回避するためにできたのが、ソリッドボディータイプのエレキギターです。(資料が少ないので詳しくはないですが多分間違いないです。)
そもそもなんでギターにアンプをつなごうと思った人がいたかということですが、おそらくアンプを使って大きな音にすることで、より多くの人、より遠くまで音を届けたかったからではないでしょうか。wikiペディアだと他の楽器とのアンサンブルが難しかった(音量が小さかった?)ため、音量調節できるようにしたかったという記載がありました。
最初のエレキギターは1920年ごろにアコギにピックアップを取り付けたものだったようです。その後、ホロウボディーのエレキ、ソリッドボディーのエレキの順で開発が進んだようです。
これらのことから、エレキギターの進化は、ギターの鳴りと音量のバランスの追求、音量の増加とハウリング対策の繰り返しによって起きてきたものと見ることができると思います。
ギターやバイオリンは、ボディに空洞があり、板が共鳴することで音楽的な響きを得ています。しかし、その音をピックアップやマイクで拾い、アンプにつないで音量を大きくするとボディの共鳴が限界値を超えてハウリングを起こしてしまいます。そこで、ギターのボディが共鳴しづらい厚いものに改良されていきます。アコギなら生音でも良く鳴るスプール材が用いられていますが、エレキだと、アルダー、アッシュ、メイプル、マホガニーなど、スプルースに比べて重量感のある素材がよく用いられています。アンプを通した大音量だとそれらの重量感がある木材のほうが相性がいいからでしょう。
最初はアコギにマイクやピックアップを取り付けたもの。そして空洞を残しつつアンプを通してもハウリングが起こりにくいホロウボディタイプのエレキギター、そしてスタックタイプなど何発ものスピーカーを搭載した大音量アンプでも演奏可能なソリッドタイプのギターへと進化していったのだと思われます。
それから、ここで注目すべきもう一つの点が
ソリッドタイプのギターになった時点でボディ内に共鳴するための空間が排除されたこと
です。
共鳴しないと音楽的響きが得られない楽器ですが、共鳴板を排除したエレキギターがなぜ感動的な響きを奏でることができるのか。
それは共鳴関係がギター本体を飛び越え、アンプとギターで共鳴関係を成立させているからです。
ある程度大きなアンプを使っている方なら経験があると思いますが、エレキギターにはフィードバック奏法というものがあります。これは弦とアンプが共鳴しているとも取れますが、実はボディとアンプも共鳴しています。そのためギターを変えるとフィードバック音も変化しますし、ギターの木材以外全て同じ材質にしても、ギターのトーン、周波数ごとのダイナミクスレンジまで全て変化します。
つまり
エレキギターは、アンプとギター本体がセットで一つの楽器として鳴っている楽器
なのです。
たまに、おしゃれなバーでソリッドボディの楽器をエレアコ用のアンプで鳴らしているのを目にしますが、もしかするとそういった場合はホロウボディのギターかエレアコにしたほうが良いかもしれません。私がもっとも尊敬するベーシストの一人Cさんはアコースティックライブの際にはアコベを使っていますが、本当に素晴らしいサウンドの演奏を聴かせてくれます。
ちなみにアコギやホロウボディのギターもアンプを含めて一つの楽器になっていますが、ソリッドボディのギターほどその共鳴関係を限界まで突き詰めた楽器はありません。私はこの楽器の状態をまるで、グリップ力によって限界までハイスピードを求めてきたレースカーが、逆にタイヤを滑らせてドリフトさせることでより早く走ろうと進化したことと同じように感じます。現代の歪みを用いたアグレッシブなエレキギターのサウンドは、まるでハイパワーエンジンを積んだモンスターマシンが200kmを超えるスピードでドリフトをしているようなものだと思います。これだけのスリリングなサウンドになってくると好みも明確に出てきそうですが、私はソリッドギターをハイパワーなアンプで鳴らしたサウンドが大好きです。
ちなみに木材によって共鳴は様々で、フェンダー系のアルダーやアッシュ系のサウンド、ギブソン系のマホガニーサウンドはそれぞれ音の出方が全く違うので、しっかりアンプと共鳴関係が成立するようにゲインや音量、EQを調整して音作りをしてください。自分なりの考えは以前記事にしているので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。(以前の記事では、パワフルな演奏にはパワフルなピッキングが必要と書いたのですが、最近は大音量のセッティングに対して繊細なピッキングが求められるという考えになっています。)
それから、ここまでくるとマニアックすぎる話題になりますが、演奏する空間(ライブハウス、スタジオ、ホール、アリーナ、ドーム)も共鳴関係にあります。
エレキギターは電気によって大きな空間まで楽器のように共鳴関係を作ることでドームやアリーナまで鳴らすことができる究極の楽器です。
また、同じ木材でも様々なグレードがありますが、その細かな違いは音量が大きくなるほど明確に出てきます。実は私は、まだ購入できずにいるのですが、いずれビンテージ楽器が欲しいと思っています。木材は経年変化によって年数が経つほど独特の鳴り方をするようになります。木材の構造には詳しくありませんが、ビンテージ楽器の鳴りは本当に素晴らしいです。そして、この変化はやはり大きな音になるほど明確に認識できるようになります。この関係は、写真の出来栄えや画素数などと似ていると思います。
iPhoneで撮った写真は非常に綺麗です。スマホのレンズも高性能ですし、写真を美しく見せるためのアルゴリズムも非常に高度です。アドビのPS Expressというフリーソフトのフィルターをかけた際は感動すら覚えました。(最新のマスタリングソフトのアルゴリズムなども素人エンジニアの腕なんかははるかに超えていて驚くばかりです。マスタリング後の音源に度肝を抜かれることが多々あります。)L版の写真やスマホの画像で見れば20万円のカメラ、100万円のレンズで撮った写真にも劣らないほどの美しさに見えることもあるかもしれません。しかし、展覧会を行うほどの大きな写真、写真の奥行きを余すことなく再現する素晴らしいモニターで見た際にはその違いは、写真の素人にも明確に認識できるはずです。
エレキギターは、アンプでしっかり鳴らすことでその個体差も明確に認識できます。
木材のグレードや年代、材質、ブリッジやナット、指板材など、ものによって驚くほど個体差があります。
この記事を読んでいただいた方へ
楽器本体の持つ魅力は本当に無限大です。私には、エレキギターと出会わなければ私の人生は今とは全く違うものになっていたと断言できるほど素晴らしいものです。また、エレキギターによって相性のいいアンプも確実に存在します。ぜひエレキギターを大きなアンプにジャックインして、ボリュームを思い切り上げて鳴らしてください。(ゲインは適量で)それぞれの楽器に必ず、作り手の美しいメッセージが込められています。その声を受け取ることで、プレイヤーの音も一緒に進化していくのです。
エレキギターは最強にして最高の楽器です。