本当にそれでいい?PA的EQと楽器的EQ
Sound making laboをご覧いただいているみなさん。お久しぶりです。
今回は、EQの捉え方について、私なりの持論を書いてみようと思います。
すでに、この話題については、ギターとアンプの共鳴の話でも触れているのですが、今回はバンドアンサンブルやPAの立場から見たEQとの関係について、私なりの見解を述べようと思います。
まず楽器的EQですが、こちらは以前書いたように、楽器のダイナミクスを十分に感じられるようにすると良いです。適切なゲイン設定をした上で、EQを楽器の鳴りに合わせていくと、鳴り(ダイナミクス)が大きく、はっきりと感じられるところがあります。ただし、上げすぎるとダイナミクスの幅が失われて、歪んだ音になってきます。その歪む直前かちょい歪みぐらいのEQセッティングができると、ダイナミクスを十分に引き出せます。
多くのギターアンプのEQはパッシブタイプなるので、フルテンの状態がフラットと捉えて、余分な帯域を削るという考え方もあります。しかし、私は耳で楽器との共鳴、ダイナミクスの幅を聴いてセッティングを決めます。フルテンがフラットだとしても、音がピーキーなことが多いからです。
また、ギターアンプのBASSはボディと、中域はボディトップや弦と、高域は弦などの倍音成分を捉えているため、バッキングとソロではセッティングも変えています。
ギターが薄めのものは高域が共鳴しやすく、厚みがあるものは低域よりの音が共鳴しやすいです。また、材質などによっても楽器の特性は大きく変わるため、同じピックアップを積んでも驚くほどEQの振れ幅は変わってきます。いろいろなギターを試して、それぞれの楽器の音(ダイナミクス)を引き出してください。
そして、今回の本題である、バンドアンサンブルのEQ、PAのEQについて触れたいと思います。
読者のみなさんの中にもEQの調整でバンドアンサンブルを作っている人は多いと思います。低音成分は周波数が低いため、音がかぶりやすく、その影響も大きいです。そのため、低音がかぶらないようにバスドラムやベース、ベースとギターの低音がかぶる部分をEQでカットすることで、分離をよくしようとします。このアンサンブルの処理は一理あるし、とりあえずてっとり早く音のかぶりの問題を解消できるため、多くのバンド、PAはこのアプローチでバンドアンサンブルを作っていると思います。
しかし、実はこのことが音楽的に大きな問題を抱えていて、しかもほとんどのバンドやライブ、現場で問題として捉えられていないと私は思うのです。
かぶりをEQで取るということは、楽器の響とは違う響を狙って音を録っているということです。言い換えると、その楽器らしさ、ダイナミクスが失われることです。
乱筆なメモですが、周波数特製のイメージでいうとこんな感じです。(waveは楽器の音、MICはEQ処理したPAの波形傾向と同等のものとして捉えてください。)
楽器の鳴りとPAで録ろうとする音がかぶる赤い部分が大きいほど、ダイナミクスは大きくなります。本来の楽器の鳴りとずらしてEQ処理したり、相性の悪いマイクを選んだりした時の出音は、原音のダイナミクスを小さくしてしまうため、いわゆる抜けない音になります。
しかし、適切なEQ処理やマイクの選択により、原音の響とピークを合わせると、楽器の響を引き出したダイナミクスの大きな音にすることができます。
では、このダイナミクスの大きな部分が他のパートと被る場合、どうすればよかというと、そういう響の楽器をそもそも選ばないことです。また、安易にEQでカットせず、曲構成まで考えてこまめに音量調節すれば問題は解消できます。
例えば、ギターを二本持つ場合、二人ともレスポールのようなボディの厚い、低音の出るギターを弾くと、帯域が被りやすくなります。その場合は、どちらかがボディの薄めなギターにするとかぶりが抑えられます。その日限りのセッションで楽器を選べないような時は、EQで響を抑えてなんて方向に行きたくなりますが、そこはお互いにソロとバッキングで音量を切り替えたり、ボーカルが入るところと出るところで、細かく音量調節をしていく方が、良い結果になります。
それから、不要なEQカットはよくないと書きましたが、楽器の鳴りを引き出したセッティングができていれば、ギターやベース本体のトーン調整で、曲展開に合わせて前に出たり引っ込んだりすることは有効です。よくないのは、自分の楽器のトーンを抑えた、はっきりしない音作りを最初にしてしまうことです。音楽的に盛り上がりや静けさを演出することは、もっとも大切な表現の一つです。それなのに、最初からお互いの音が被ることを恐れて、はっきりしない音を作るなら、そんなパートはそもそもアンサンブルを作る上で必要なパートなのかを考えた方がいいです。多彩な表現、バンドとのアンサンブルを作るためにも、もっとも自分の楽器の鳴りを引き出せるセッティングを作って、そこから曲に合わせてこまめに調節をすることが良い演奏と音作りの近道だと私は考えます。
それからPAなどの大きな視点で見ると、バンドの響以外に会場の響というものがあります。
バンドの音作りでも意識すべき点ですが、とりあえず話が広がらないようにここではPAの視点として取り上げます。
例えば、会場によって縦横の長さが違うので、どうしても強め合う帯域、弱め合う帯域が出てきます。それを防ぐような斜めの壁構造を持つホールや縦横の比率を整えた会場もあるのですが、音響特製の悪いただの長方形のホールなども多いので、そういう偏った響を整える処理がPAには求められます。あとはスピーカーやアンプによっても響やすい帯域があるので、そレラを含めてGEQ(グラフィックイコライザ)で調節することがPAの基本です。モニタースピーカーなどはマイクの音とのかぶりも起きやすいので、ハウリング対策のカットも積極的に行うでしょう。また、バスドラムやベース以外は、80Hz以下の帯域はほとんど出ないので、そういったEQカットを先にしておくことは絶対に必要です。
グラフィックイコライザ⇩
しかし、PAによっては必要以上にEQ処理をして、楽器だけでなく、会場全体の自然な響やバンド全体の響もカットして変な響にしいることがあります。そういうことをしてしまうと、バンド側での細かなアンサンブルの調整がしにくくなったり、躍動感のない音になったりしてしまいます。演奏が始まると、ついつい横槍を入れてPAのEQをいじりたくなると思うのですが、そこはバンドさんに任せる方が音楽らしいと私は思います。それにEQ処理以前に、バンドやPAのボリュームバランスが悪い場合も多いです。そういったところも含めてバンド、ステージ、そして会場全体の音までを音楽的な空間にできると、自然と躍動感のある音楽ができます。外音はPA任せというバンドの話も聞きますが、バンドの響はバンド自身で作ることが賢明だと思います。
このブログの記事は私の持論を好き勝手に書いているものなので、異論も多々あると思います。私が知らないこと、気づいていないこと、理解していないことも多々あると思いますので、その場合は、教えてください。
まとめ
・バンドの音はバンドで作る。
・バンドの響を変えるほどのEQ処理を施すと、バンドのダイナミクスが失われたり、音が歪んでしまうために、響かない音になってしまう。PAでの行き過ぎたEQ処理はしない方が良い。
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